愛馬の活躍を支える!競馬の「外厩」徹底解説ガイド

募集馬見学ツアー

一口馬主であれば誰もが気になる愛馬のコンディション。その鍵を握るのが、レースの合間を過ごす「外厩」です。愛馬の近況報告を読んで、「〇〇へ放牧」という一文に、ただ休んでいるだけだと思っていませんか?実はその裏側には、勝利に向けた緻密な戦略が隠されています。その鍵こそが「外厩」なのです。
この記事では、外厩の基本から各施設の特徴、そして一口馬主としてどう情報を読み解けばよいかまで、分かりやすく、そして深く解説します。このガイドを読めば、あなたの愛馬の近況報告が、これまで以上に面白い成長の物語に見えてくるはずです。


第1章:そもそも「外厩」って何?~トレセンとの違いと役割~

この章では、現代競馬に不可欠な「外厩」の基本的な概念と、なぜそれが必要なのかという根本的な理由を解き明かします。JRAのトレーニングセンター(トレセン)との役割分担を理解することで、競走馬の育成システムの全体像が見えてきます。

1-1. 外厩とは?

外厩(がいきゅう)とは、その名の通り、JRA(日本中央競馬会)が管轄する美浦・栗東トレーニングセンター(トレセン)の「外」にある育成・調教厩舎のことです 。これらは民間の企業によって運営されており、トレセンに匹敵する、あるいはそれを凌駕するほどの最新鋭の設備を備えた施設も少なくありません 。  

では、なぜこのようなトレセン外の施設が必要なのでしょうか。その最大の理由は、JRAが定める「貸付馬房数の制限」にあります。JRAの調教師は、トレセン内でJRAから貸与される厩舎(馬房)の数が決まっており、その数を超えて競走馬を預かることはできません 。例えば、ある調教師が28馬房を貸与されている場合、トレセン内に同時に置いておける管理馬は28頭が上限となります。  

しかし、人気の調教師ともなれば、管理を委託されている馬の数はその数十頭をはるかに超えるのが現実です 。このJRAの規制と現実の管理頭数のギャップを埋めるために生まれたのが、外厩システムです。レースを終えた馬や、次の出走まで間隔が空く馬、あるいはまだデビュー前の若駒などを外厩に移動させることで、調教師は限られたトレセンの馬房を効率的に回転させ、常にレースに出走可能な状態の馬を厩舎に揃えることができるのです 。つまり、外厩はJRAの制度的な制約から必然的に生まれた、現代競馬の根幹を支える重要なインフラと言えます。  

1-2. 外厩の主な役割

外厩が担う役割は多岐にわたります。単なる待機場所ではなく、それぞれの馬の状態や目的に応じて、以下の4つの主要な機能を果たしています。

  • 休養・リフレッシュ レースで激走した後の馬は、心身ともに疲労が蓄積しています。外厩では、こうした馬たちに休息を与え、リフレッシュさせる役割を担います 。トレセンの馬房という緊張感のある環境から離れ、よりリラックスできる環境で過ごすことで、精神的な回復も促します。  
  • 育成・調教 デビュー前の若駒や、まだ基礎体力が固まっていない馬の育成調教も外厩の重要な役割です。人を乗せるための初期馴致から始まり、坂路コースや周回コースを使ってじっくりと基礎体力を養います 。トレセンに入厩する前の段階で、競走馬としての土台作りを徹底的に行う場所なのです。  
  • 調整(レースに向けた仕上げ) これが現代の外厩が持つ最も重要な機能です。かつてはトレセンで時間をかけて行っていたレースに向けた最終調整を、外厩である程度まで仕上げてしまうのです 。外厩でしっかりと乗り込み、馬体をほぼ完成させた状態でトレセンに入厩させ、レース直前の追い切りだけで出走態勢を整える。この「外厩で仕上げて、トレセンは最終確認の場」という流れは、馬房の効率的な活用を可能にし、特に有力なクラブ馬を中心に主流のスタイルとなっています 。  
  • 治療・リハビリ 骨折や屈腱炎など、レースや調教中に故障してしまった馬の治療とリハビリテーションも行います。多くの外厩は先進的な医療設備を備えており、獣医師と連携しながら、競走生活への復帰を目指して長期的なケアを行います。

1-3. “放牧”との違いは?

一口馬主近況報告で頻繁に目にする「〇〇へ放牧」という言葉。この言葉から、多くの人は北海道の広大な牧草地でのんびりと草を食む姿を想像するかもしれません 。しかし、現代競馬におけるこの「放牧」は、その言葉のイメージとは大きく異なります。  

トレセンから外厩へ移動することを指して慣例的に「放牧」と表現していますが、その実態は「次のレースに向けた積極的なトレーニングキャンプ」と捉えるのが正解です。もちろん、疲労回復を主目的とした軽い運動に留める場合もありますが、特に有力な外厩では、トレセンと変わらない、あるいはそれ以上に厳しい調教が日々行われています。  

つまり、愛馬の近況報告で「放牧に出ました」と書かれていた場合、それは「長期休暇に入った」のではなく、「次の勝利を目指すための新たな準備期間に入った」と読み解く必要があります。この認識の違いが、愛馬の状態を正しく理解するための第一歩となるのです。


第2章:【勢力図】日本の主要な外厩施設を一挙紹介!

この章では、日本の競馬界を動かす主要な外厩施設を、その系列や特徴とともに具体的に紹介します。各施設がどのような設備を持ち、どんな哲学で馬を鍛えているのかを知ることで、愛馬が置かれている環境をより深く理解できるようになります。

まずは、主要な外厩のスペックを一覧で比較してみましょう。

施設名拠点主な系列坂路スペック(主なコース)主な特徴
ノーザンファーム天栄福島県ノーザンファーム900m (ウッドチップ)関東馬の拠点。「天栄仕上げ」と呼ばれる厳しい調教。
ノーザンファームしがらき滋賀県ノーザンファーム800m (ポリトラック)関西馬の拠点。栗東トレセンより急勾配の坂路。
山元トレーニングセンター宮城県社台ファーム900m (ウッドチップ)社台ファーム関東馬の拠点。個性を尊重した育成。
グリーンウッド・トレーニング滋賀県社台ファーム600m (屋根付きウッド)関西の老舗外厩。天候に左右されない屋根付き坂路。
社台ファーム鈴鹿三重県社台ファーム1100m (ウッドチップ)2024年開設。国内最大級の直線1100m坂路が武器。
チャンピオンヒルズ滋賀県独立系1000m x 2本 (ウッド/フェルト)2020年開設。2本の1000m直線坂路を持つ巨大施設。
吉澤ステーブル茨城/滋賀独立系650m (屋根付きウッド/WEST)飼料・調教・装蹄の三位一体を掲げる独立系の雄。
大山ヒルズ鳥取県ノースヒルズ800m (ウッドチップ)「大山仕上げ」。坂路と周回コースが直結した特殊形状。

2-1. 【東西の雄】ノーザンファーム系の外厩

現代競馬を語る上で欠かせないのが、ノーザンファームが東西に構える二大拠点です。

  • ノーザンファーム天栄(福島県) 美浦トレーニングセンターに入厩する関東馬の拠点です。その名を競馬界に轟かせているのが「天栄仕上げ」という言葉。これは、NF天栄で行われる非常に厳しく、緻密なトレーニングを指します 。ここで徹底的に鍛え上げられた馬は、心身ともにほぼレースに出走できる状態にまで仕上げられ、トレセンでは最小限の調整でレースに臨みます。全長900mの坂路**コースと1200mの周回コースを備え、海外遠征に対応可能な国内唯一の民間検疫厩舎も併設されています 。  
  • ノーザンファームしがらき(滋賀県) 栗東トレーニングセンターに入厩する関西馬の拠点です。栗東から車で約30~40分という好立地に加え、栗東よりも平均気温が3~5度低く、特に夏場の調整において大きなアドバンテージを持ちます 。特筆すべきは、全長800mのポリトラック製坂路。高低差39.7mは、栗東トレセンの坂路(高低差32.0m)を大きく上回る急勾配で、ここで鍛えられた馬は強力な心肺機能とパワーを身につけます 。  

2-2. 【伝統と革新】社台ファーム系の外厩

日本の生産界をリードしてきた社台ファームも、伝統ある外厩と最新鋭の施設を駆使して有力馬を送り出しています。

  • 山元トレーニングセンター(宮城県) 社台ファームおよび追分ファームの関東馬の拠点として、長年の実績を誇る外厩です 。ソールオリエンスなど多くのG1馬を送り出してきました 。全長900mのウッドチップ坂路と1100mの周回コースを擁し、一頭一頭の個性や成長に合わせた丁寧な育成調教に定評があります 。  
  • グリーンウッド・トレーニング(滋賀県) 平成13年(2001年)開業と、トレセン近郊外厩の先駆け的な存在で、社台ファームの関西馬を長年支えてきました 。全長600mの屋根付き坂路が最大の特徴で、雨や雪など天候に左右されずに安定した調教を行えるのが強みです 。獣医師が常駐するなど、馬のケア体制も充実しています。  
  • 【新拠点】社台ファーム鈴鹿(三重県) 2024年に開設された、社台グループの最新鋭外厩施設です 。最大の武器は、栗東トレセンの坂路(全長1085m、高低差32m)を凌駕する、直線1100m、高低差38mという国内最大級のウッドチップ坂路コース 。この圧倒的な設備は、関西圏におけるノーザンファームの牙城を崩すべく投じられた、社台ファームの革新を象徴する存在です。

2-3. 【個性派ぞろい】日高系・その他の有力外厩

ノーザン・社台系以外にも、独自の哲学と優れた設備で存在感を示す有力外厩が数多く存在します。

  • ビッグレッドファーム(コスモヴューファーム) マイネル軍団やウイン軍団の馬を育成する、日高を代表する牧場です。「丈夫な馬作り」を理念に掲げ、ハードトレーニングで知られています 。特に、序盤の勾配が最大18%にも達する1000mの坂路は、馬の心肺機能を極限まで鍛え上げます 。  
  • 吉澤ステーブルEAST/WEST 特定のクラブに属さない独立系外厩の代表格で、東西に拠点を構え、多くの厩舎が利用しています 。吉澤代表が提唱する「飼料」「トレーニング」「装蹄」の三位一体の管理哲学が特徴で、一頭一頭に合わせた個別メニューで馬を仕上げていきます 。  
  • 大山ヒルズ(ノースヒルズ) コントレイルなどを輩出したノースヒルズグループのプライベート外厩で、「大山仕上げ」として知られています。最大の特徴は、全長800mの坂路を上りきった先がそのまま周回コースに繋がっている独特のレイアウトです 。これにより、止まることなく持続的な負荷をかけた調教が可能です。  
  • チャンピオンヒルズ(滋賀県) 2020年に滋賀県に開場した、新進気鋭の巨大外厩施設 。その規模と設備は圧巻で、最大の特徴は全長1000mの直線坂路が2本並走している点です。1本はウッドチップ、もう1本はクッション性に優れたフェルトダートと、馬の脚元や目的に応じて使い分けが可能 。開場後すぐに多くの有力厩舎が利用を開始し、関西の外厩勢力図を大きく塗り替えました。  
  • その他注目の外厩 その他にも、京都府の宇治田原優駿ステーブルや、茨城県のKSトレーニングセンターなど、特色ある施設が全国に点在し、日本競馬のレベル向上に貢献しています。

【コラム】関西圏の外厩最新事情

近年、栗東トレーニングセンター近郊の外厩地図は劇的に変化しています。長らくノーザンファームしがらきグリーンウッド・トレーニングが二強体制を築いてきましたが、2020年のチャンピオンヒルズ、2024年の社台ファーム鈴鹿の相次ぐ開業が、この構図に風穴を開けました 。  

これらの新興施設は、JRAの栗東トレセンの坂路をも上回るスペックの調教コースを備えています 。これは、競走馬の育成・仕上げにおける「主戦場」が、もはやJRAのトレセン内だけではなくなりつつあることを示唆しています。基礎体力の養成や心肺機能の強化といった、かつてはトレセンが中心だった役割の多くが、より優れた設備を持つ外厩へと移行しているのです。この「トレーニングの非中央集権化」とも言える動きは、どの外厩で調整されるかが、以前にも増して競走成績に直結する時代になったことを意味しており、一口馬主にとっても見逃せない大きな変化と言えるでしょう。  


第3章:一口馬主のための外厩情報の読み解き方

この章では、これまでの知識を実践に活かすための具体的な方法を解説します。クラブから届く近況報告のどこに注目すべきか、そしてその情報をどう一口馬主ライフに役立てるかを見ていきましょう。

3-1. クラブの近況報告から愛馬の状態をチェック!

毎月送られてくる愛馬のレポートには、コンディションを読み解くヒントが満載です。以下のキーワードに注目してみましょう。

  • 「〇〇(外厩名)へ放牧」の意味を読み解く 第1章で解説した通り、これは単なる休養ではありません。どの外厩に移動したかによって、その目的が推測できます。例えば、ノーザンファーム天栄しがらきへの移動であれば、次走に向けて厳しいトレーニングを積むことが前提となります。一方で、リハビリ施設が充実した外厩であれば、まずは体調の回復が最優先となります。
  • 「坂路で〇秒台」「乗り込み量」から状態を推測する 調教の強度を示す重要な指標です。一般的に「ハロン15秒ペース(通称:15-15)」は、基礎体力をつけるためのキャンター(駆け足)を指します。レポートに「坂路で15-15を継続」とあれば、じっくりと土台作りをしている段階です。これが「終い1ハロン14秒台」や「13秒台」といった記述に変わってきたら、レースが近いことを見据え、より実践的なトレーニングに移行したサインと読み取れます。また、「乗り込み量」という言葉は、トレーニングの総量を指し、これが十分であることは、スタミナの土台がしっかりできている証拠です。
  • 馬体重の増減からコンディションを推測する馬体重は、馬の健康状態を示すバロメーターです。
    • レース後の増減:レース後は疲労で少し体重が減るのが普通です。その後、外厩で順調に回復し、前走のレース時と同じか少しプラスの体重に戻れば、健康な証拠と言えます。
    • トレーニング中の増減育成期やトレーニング期に、飼葉を食べながら馬体重が緩やかに増えていくのは、筋肉がついてきている良い兆候です。逆に、急激に減少した場合は体調不良の可能性も考えられます。また、調教負荷が足りずに増えすぎている状態は「太め残り」と呼ばれ、レースでのパフォーマンスに影響することがあります 。  

3-2. 出資馬検討に活かす外厩情報

外厩の知識は、これから出資する馬を選ぶ際にも強力な武器となります。

  • 特定の厩舎と外厩の連携(黄金タッグ)に注目する トップトレーナーは、特定の外厩と非常に強固な連携関係を築いています。例えば、「国枝栄厩舎 × ノーザンファーム天栄」や「中内田充正厩舎 × ノーザンファームしがらき」などは、数々の名馬を送り出してきた「黄金タッグ」として知られています。これらの組み合わせの馬は、育成からレースまで一貫したスムーズな管理体制が期待でき、成功の確率が高い傾向があると言われています。
  • 募集馬の育成場所(外厩)から分かること 1歳馬の募集カタログには、その馬がどの牧場や育成施設で育ったかが記載されています。ノーザンファームや社台ファームといったトップクラスの環境で初期育成を施された馬は、競走馬としての優れた基礎教育を受けていると考えられます 。これは人間で言えば、最高の教育環境で育ったエリートのようなもので、その後の成長において大きなアドバンテージとなる可能性があります。  

3-3. 外厩を理解すると競馬観戦がもっと楽しくなる!

外厩でどのように仕上げられてきたかを知っていると、レース当日のパドックやレース展開の予想が、より一層深みを増します。

  • 外厩情報を踏まえたパドックでの馬体の見方 パドックで馬体を見る際、その馬がどの外厩で仕上げられてきたかを頭に入れておくと、評価の精度が上がります。
    • 「天栄仕上げ」やビッグレッドファームでハードに鍛えられた馬であれば、無駄な脂肪がなく、肋骨(アバラ)が薄っすらと見えるくらい引き締まっているのが理想的な状態です 。  
    • 逆に、評判の外厩帰りでも、馬体が太く見えたり、歩様に活気がなかったりする場合は、万全の状態にない可能性を疑うことができます。
    • 毛ヅヤの良さ、筋肉の張り、力強い踏み込みなどは、順調に調整された証です 。  
  • レース間隔(在厩日数)と外厩での調整過程の関係性 現代の競馬では、レース後に外厩へ移動し、心身をリフレッシュさせてから次のレースに臨むのが一般的です。レース間隔が2ヶ月以上空いていても、その間ずっと有力外厩で調整されていれば、それは「休み明け」ではなく、むしろ万全にリセットされた「フレッシュな状態」と判断できます。このサイクルを理解することで、一見不利に見えるローテーションの裏に隠された陣営の戦略を読み解くことができます。

【まとめ】

これまで見てきたように、「外厩」はもはや単なる休養施設ではなく、愛馬の競走生活における勝利に不可欠な、調教師と二人三脚で歩むべき重要なパートナーです。JRAの馬房数制限という制度から生まれ、今やトレーニングセンターと比肩する、あるいはそれ以上の役割を担うまでに進化しました。

一口馬主として、この外厩の役割と各施設の特徴を理解することは、クラブから届く近況報告の一文一文を、より深く、より楽しく読み解くための「鍵」となります。馬体重の数字の裏にある努力、坂路のタイムに込められた期待。それらを感じ取れるようになれば、あなたはもう単なる出資者ではありません。愛馬の成長を間近で見守り、その物語を共有する、真のパートナーです。

外厩というレンズを通して愛馬を見つめることで、あなたの一口馬主ライフが、これまで以上に豊かでエキサイティングなものになることを願っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA