社台ファーム外厩 vs ノーザンファーム天栄・しがらき – 最強トレーニング施設を徹底比較

競馬界では近年「外厩(がいきゅう)」と呼ばれる牧場のトレーニング施設が勝敗を左右すると言われます。中でも社台ファームとノーザンファームは日本競馬を代表する名門であり、それぞれが充実した外厩設備を持っています。本記事では社台ファームの外厩施設とノーザンファームの外厩施設(特に天栄としがらき)を比較し、所在地や設備、調教方針、実績、競馬ファン・一口馬主からの評判まで詳しく解説します。競馬初心者から熱心なファンまで楽しめる内容でお届けします。
社台ファーム外厩の概要と特徴
社台ファームは歴史ある生産牧場ですが、外厩による競走馬の育成・調整にも早くから着手しました。主な社台系外厩としては、宮城県の「山元トレーニングセンター」、滋賀県の「グリーンウッド・トレーニング」、そして2024年に三重県に開設された最新施設「社台ファーム鈴鹿トレーニングセンター」が挙げられます。
- 山元トレーニングセンター(宮城県山元町) – 1992年に社台グループが開設した日本初期の本格外厩施設です。坂路コース(当初750m→2020年に900m延長)や1100m周回コースを備え、約274頭収容可能な厩舎があります。美浦トレセン(関東)所属の社台系の馬(社台ファーム生産馬や追分ファーム生産馬)が主に利用し、北海道~本州の中継拠点としても機能します。社台がこの施設を30年以上前に設置したことは、外厩活用の先見性を示すものです。
- グリーンウッド・トレーニング(滋賀県甲賀市) – 2001年開業の外厩施設で、社台グループが設置したものではありませんが社台ファームのスタッフが常駐しています。600mの屋根付き坂路(最大勾配3%)と1000m周回コースなどを備え約200頭収容。最新鋭の施設と比べると設備面では見劣りしますが、栗東トレセン(関西)から近く長年のノウハウ蓄積もあり、関西の有力厩舎から厚い信頼を得ています。社台系以外の馬も多く利用し、数々の活躍馬を送り出してきた老舗外厩です。
- 社台ファーム鈴鹿トレーニングセンター(三重県鈴鹿市) – 2024年6月に開業した社台ファーム直営の最新外厩施設です。直線1100mのウッドチップ坂路(高低差38m・勾配3.5%)と周回800mコースを備え、馬房には冷房とミストを完備する国内トップレベルの設備が自慢です。この1100m坂路は栗東トレセン(坂路900m・高低差32m)より長く勾配も大きく、日本最大級の坂路となっています。栗東トレセンから車で約50分という好立地で、移送時間が大幅短縮される利点もあります。開業時は厩舎2棟・約50頭の収容規模でスタートしましたが、今後段階的に増設し最終目標は200頭規模とされています。社台ファーム関西馬の外厩利用は従来グリーンウッドや山元TCに分散していましたが、今後は順次鈴鹿へ一本化される計画です。開所式で社台ファーム代表の吉田照哉氏は「関西に拠点ができたので馬の入れ替えをして競馬にいけるのは大きい。この施設と我々のノウハウがあれば素晴らしい馬が作れると確信している」と語っています。

三重県に新設された社台ファーム鈴鹿の坂路。全長1100mの真っ直ぐなウッドチップ坂路で、開放感あふれる環境が特徴です。馬に負担をかけず左右均等に鍛えられる長大な坂路は、故障リスクを減らしつつ高負荷トレーニングを可能にしています。栗東近郊にこれほどの施設ができたことで、社台グループの関西馬の調整力強化が期待されています。keiba.sponichi.co.jp
社台ファーム外厩の調教方針: 従来、社台ファームは「伝統を重んじつつ関係者とのバランスを重視した経営」と評され、若馬を無理に急仕上げしない傾向があると言われてきました。近年は中長期的視点を重んじる育成方針を打ち出しており、「2歳戦を焦って使わず、本当の目標は先にある」という意識がスタッフに浸透してきたといいます。実際、社台ファーム生産馬は古馬になってからの活躍が目立ち始め、3歳クラシック一辺倒ではない育成方針への転換が成果を上げつつあります。こうした方針のもと、鈴鹿トレセンでも若駒をじっくり鍛え、長く活躍できる競走馬を育てることを目指しています。
社台系外厩からの主な活躍馬: 古くは社台ファーム生産馬の多くが山元TCで調整され、クラシックや古馬GⅠ戦線で活躍しました。最近では2024年上半期に社台ファーム生産馬がG1レースを4勝(大阪杯=ベラジオオペラ、NHKマイルC=ジャンタルマンタル、ヴィクトリアマイル=テンハッピーローズ、日本ダービー=ダノンデザイル)と量産し、生産者ランキング首位のノーザンファームに肉薄する勢いを見せています。これらの馬もそれぞれ社台系の外厩でリフレッシュや乗り込みを行っており、新設の鈴鹿トレセン開業と同時に社台ファーム躍進の兆しが見えると話題になりました。例えばUAEダービー馬のデルマソトガケは2024年夏に鈴鹿で過ごしてから栗東に帰厩するなど、大物馬の利用も始まっています。社台ファームの外厩体制はまさに変革期を迎えており、今後の活躍馬輩出が期待されています。
ノーザンファーム天栄・しがらきの概要と特徴
一方、ノーザンファームは社台ファームから分かれた生産牧場ですが、自前の東西外厩を整備し業界をリードしてきました。主なノーザン系外厩として、福島県にある「ノーザンファーム天栄(てんえい)」と滋賀県にある「ノーザンファームしがらき」が双璧です。それぞれ美浦トレセン(関東)と栗東トレセン(関西)に対応する形で2010年前後に開設され、多くのノーザン系所属馬(クラブ馬や個人馬主のノーザン生産馬)が利用しています。
- ノーザンファーム天栄(福島県天栄村) – 2011年に開場したノーザンファーム東日本の外厩拠点です。屋外900mの直線坂路(勾配最大約8%)と1200mの周回コースというトレセン並み、あるいはそれ以上の設備を持ち、「第二のトレセン」「最強の外厩」とも称されます。調教厩舎は12棟355馬房を備え、獣医師免許を持つ者を含む約120名ものスタッフが在籍(2017年時点)するなど人的設備も充実しています。主に美浦所属のノーザンファーム関係馬が入厩前の乗り込みやレース後のリフレッシュに利用し、レース直前まで天栄で乗り込みを行ってレース1週前にトレセン入厩する「10日競馬」の調整も定着しました。美浦から車で2時間半(馬運車で3.5~4時間)の距離にあり、北海道から輸送しても馬に負担の少ない時間内で到着できる立地の良さも強みです。天栄は元々シルクホースクラブの育成牧場「天栄ホースパーク」をノーザンが提携・買収して発展させた経緯があり、現在では関東のノーザン馬の総本山となっています。坂路はポリトラック素材で自動計測器完備、海外遠征用の検疫厩舎も併設するなど機能満載です。
- ノーザンファームしがらき(滋賀県甲賀市信楽町) – 2010年開場のノーザンファーム西日本の外厩拠点です。800mの直線坂路(こちらも最大勾配約8%)と900m周回コースを持ち、厩舎棟は14棟・410馬房(開場時370馬房)と国内最大級の規模を誇ります。主に栗東所属のノーザン系馬が入厩前の調整や休養に利用し、美浦所属でも友道康夫厩舎など一部栗東馬主導のケースでしがらきを使う例もあります。栗東トレセンから車でわずか30~40分の至近距離にあり、2010年代以降は**「栗東近郊=しがらき仕上げ」**がすっかり定着しました。しがらきでも天栄同様に坂路はノーザン開発のニューポリトラック素材で自動計測対応、角馬場や最新鋭の厩舎設備を備えています。広大な敷地(東京ドーム約7個分)で馬房は広めに設計され、馬にストレスを与えない工夫がなされているのも特徴です。2010年の開設以来、多くの関西馬がここで鍛えられ、**クラシックやGⅠ戦線で活躍するノーザン生産馬の多くが「しがらき帰り」**となっています。
福島県にあるノーザンファーム天栄の施設全景。右奥に見える建物が事務所で、敷地全体を見渡せます。左手に一直線の坂路コース(900m)が伸び、内側には緑に囲まれた1200mの周回コースが広がっています。美浦トレセンにも劣らない最新設備と雄大な環境の下、関東馬たちがここで鍛え抜かれます。
ノーザン系外厩の調教方針: ノーザンファームの外厩では、「2歳~3歳春のクラシック制覇」を最大目標に据えた結果重視・効率重視の育成が行われる傾向があります。牡馬ならダービー、牝馬なら桜花賞やオークスを狙うため、デビュー時期も早めに設定され、天栄・しがらきでデビュー前から負荷の高いトレーニングを積んでいきます。天栄場長の木實谷(きのみや)氏の下で確立された育成メソッドは、「外厩で8~9割仕上げてから入厩し、最後の仕上げは厩舎で」というスタイルを業界標準に変えました。ノーザン系外厩にはGI馬を多数手掛けた豊富なノウハウが蓄積されており、スタッフも経験豊富。獣医師ら専門家のチームが馬ごとの細かいケアと調整メニューを組み、馬体重管理からメンタル面のケアまで含めてトレーナー並みに馬を仕上げていくのが強みです。この結果、休み明けでもいきなり走れる馬が多く、「外厩帰り=即戦力」というイメージが定着しました。
ノーザン系外厩からの主な活躍馬: ノーザンファーム天栄・しがらきは数え切れないほどの名馬を輩出しています。天栄調整を経てGIを勝った馬にはアーモンドアイ(天栄で鍛えられ牝馬三冠+ジャパンCなど)、イクイノックス、ソダシ等が挙げられ、しがらき仕上げの代表にはジェンティルドンナ、コントレイル、イクイノックス(東西行き来)などがいます。実際、2024年のJRA・GⅠ競走では天栄利用馬が4勝・しがらき利用馬も4勝を挙げ、両者がトップの実績を収めました。特に関東のGIでは「天栄仕上げ」の馬がしばしば上位を独占し、もはやトレセン仕上げとの差は歴然とすら言われます。「ノーザンファームの外厩を使えるか否かがGI制覇への近道」という評判さえあり、多くの有力馬主・クラブがノーザン生産馬を持ちたがる一因となっています。
設備・トレーニング環境の比較
社台ファーム系とノーザンファーム系、それぞれの外厩施設の設備をまとめると以下のようになります(主な施設を抜粋)。
| 外厩施設名 | 所在地(主な対象馬) | 坂路コース | 周回コース | 厩舎収容数 | 開設年 |
|---|---|---|---|---|---|
| 山元トレーニングセンター (社台系) | 宮城県山元町(関東馬) | 屋外坂路750m→900m (最大勾配9%) | 屋外周回1100m | 約274頭 | 1992年 |
| グリーンウッド (社台系) | 滋賀県甲賀市(関西馬) | 屋根付坂路600m (勾配3%) | 屋外周回1000m | 約200頭 | 2001年 |
| 社台ファーム鈴鹿 (社台系) | 三重県鈴鹿市(関西馬) | 坂路1100m (高低差38m, 勾配3.5%) | 周回800m | 50頭→200頭予定 | 2024年 |
| ノーザンF天栄 (ノーザン系) | 福島県天栄村(関東馬) | 坂路900m (勾配最大8%) | 周回1200 | 約355頭 | 2011年 |
| ノーザンFしがらき (ノーザン系) | 滋賀県甲賀市(関西馬) | 坂路800m (勾配最大8%) | 周回900m | 約410頭(開設時370) | 2010年 |
※グリーンウッドは社台系の外厩ですがノーザン系も開設当初一時利用していた経緯があります。鈴鹿は開設当初50馬房でスタートし、数年かけ200馬房体制に拡張予定です。
設備面で見ると、坂路の長さでは社台の鈴鹿(1100m)が突出しています。ノーザン天栄・しがらきは最大勾配が急(8%前後)で短期間に負荷をかけられる設計、一方の鈴鹿坂路は勾配3.5%と緩やかですが距離が長く持久力強化に効果を発揮しそうです。馬場素材はノーザン系がポリトラック主体なのに対し、社台鈴鹿はウッドチップを採用しています。周回コースは天栄が1200mと一番長く、他は800~1100m程度。収容頭数ではノーザン勢が当初から300~400頭規模と巨大で、社台鈴鹿はこれから増強予定です。施設ごとの環境にも特徴があり、天栄は那須連峰を望む盆地、鈴鹿は自然豊かな鈴鹿山麓で夏も涼しく、人馬ともに過ごしやすいとされています。グリーンウッドは坂路に屋根があるため雨天でも調教可能です。総じて、ノーザン外厩は早期からハイテク設備を整えて規模拡大し、社台外厩は後発ながらそれを上回る設備投資(最長坂路など)で巻き返しを図っている状況と言えます。
調整力・成績の比較
外厩ごとの競走成績も気になるところです。近年は専門誌やWebで「どの外厩帰りの馬が勝ったか」が頻繁に話題になります。傾向として、ノーザンファーム天栄・しがらき出身馬の成績は群を抜いており、重賞・G1勝利数で他を圧倒しています。例えば2024年のJRA・G1では天栄仕上げとしがらき仕上げの馬がそれぞれ4勝ずつを挙げ、G1勝利数トップタイでした。また重賞全体でも、ノーザン外厩利用馬は毎年多数のタイトルを獲得しています。対して社台ファーム山元TCなど社台系外厩のG1実績は近年やや見劣りし、2024年はG1勝利こそ無かったものの2着1回・3着3回など善戦例はありました。ただし前述のように2024年は社台生産馬自体がG1を4勝しており、鈴鹿トレセン開業後の数年で外厩成績も向上していく可能性があります。
また興味深いのは休養明け(いわゆる「叩き一走目」)の勝率です。ノーザン天栄・しがらき帰りの馬は休み明け初戦からいきなり勝ち負けになるケースが多く、「外厩調整馬だから仕上がり万全」とファンに認知されています。実際、2023~24年データでは芝レースにおける複勝率が最も高い外厩はノーザンファーム天栄で、過剰人気の傾向がありつつも高い信頼性を維持していました。一方、社台系の山元TC帰りなどは「穴」として注目されることもあります。競馬予想の観点では、ノーザン外厩馬は人気になりやすく回収率で見ると必ずしも有利ではないという分析もあります。しかし全体的には「外厩調整=プラス材料」と考えるファンが多く、外厩情報は馬券戦略上無視できないファクターになっています。
ファン・馬主からの評判
競馬ファンの視点: 外厩の存在感が増すにつれ、ファンの間でも「どの馬がどの外厩にいたか」が話題になります。特にノーザンファーム天栄・しがらきはファンから「勝ち馬養成所」のように見られ、「天栄仕上げなら鉄板」「しがらき帰りは買い」といった声もしばしば聞かれます。実際、天栄の坂路を見学したファンからは「勾配のきつさとポリトラックの走りにくさを体感して、ここで鍛えられた馬は強くなると実感した」との感想もあります。一方で「ノーザン一強で面白くない」という声や、社台ファームの巻き返しに期待する向きもあります。2024年の社台生産馬の活躍以降、「新・社台時代の到来か」といった記事が出るなど、ファンも社台ファーム鈴鹿を含めた勢力図の変化に注目しています。総じて、社台vsノーザンの外厩対決は競馬ファンにとって興味深い話題であり、ネット掲示板やSNSでも頻繁に議論されています。
一口馬主(クラブオーナー)の視点: 外厩体制はクラブ法人の馬にも大きく影響します。ノーザンファーム傘下のクラブ(サンデーレーシング、キャロットファーム、シルクレーシング等)の募集馬は基本的にノーザン生産であり、関東馬なら天栄、関西馬ならしがらきを外厩として優先的に利用できます。一方、社台サラブレッドクラブやG1サラブレッドクラブ等の社台系クラブの募集馬は社台ファーム生産馬が中心で、関東馬は山元TC、関西馬は鈴鹿TCで調整されるケースが多くなっています。クラブ会員にとって、自分の出資馬がどの外厩にいるかは非常に重要な情報です。大手クラブでは会員向けに愛馬の近況レポートで「〇〇(外厩)在厩、乗り込み強化中」など詳細が提供されますし、見学ツアーが企画されることもあります。例えばノーザンファーム天栄は自治体のふるさと納税を利用した見学ツアーが実施されており、実際に坂路コースを歩いて登る体験や在厩馬との触れ合いイベントが催されています。社台ファーム鈴鹿も今後ファン見学を受け入れる可能性があり、一口馬主にとって外厩は身近に感じられる存在になりつつあります。
また、一口馬主仲間の間では「外厩力=クラブの実力」とも言われ、ノーザン系クラブの人気が高い理由の一つに天栄・しがらきの充実が挙げられます。とはいえ社台系クラブも鈴鹿という強力な武器を得たことで、「社台の馬でも十分戦える」という声が増えてきました。実際、2024年には社台系クラブ馬(例:G1TC所属のテンハッピーローズ等)がGI制覇し会員を歓喜させています。今後は社台・ノーザン両陣営の外厩が切磋琢磨することで、日本競馬全体のレベルアップにもつながっていくでしょう。
おわりに
社台ファームの外厩(山元・鈴鹿など)とノーザンファーム天栄・しがらきを比較してきましたが、それぞれ立地や設備、調教哲学の違いがありつつも目指すところは共通しています。それは「競走馬に最適な環境で鍛え上げ、レースで最高のパフォーマンスを発揮させること」です。ノーザンファームは先行して外厩戦略を確立し多くの実績を上げてきましたが、社台ファームも新施設と新方針で巻き返しを図っています。競馬ファンにとっては両者の切磋琢磨により名勝負が生まれることが何よりの楽しみですし、一口馬主にとっては愛馬を託す外厩の充実が心強い後ろ盾となるでしょう。「外厩」という視点で競馬を見てみると、また違ったドラマや奥深さが感じられるはずです。ぜひ次のレース観戦では出走馬の外厩情報にも注目し、社台とノーザンの戦いぶりを感じ取ってみてください。競馬の新たな楽しみ方が見えてくるかもしれません。
