ノーザンファーム天栄&しがらき徹底解説:外厩の特徴・育成方法と評判

募集馬見学ツアー

競馬ファンや一口馬主の間で「ノーザンファーム天栄」と「ノーザンファームしがらき」という名前は非常に有名です。これらは競走馬の外厩(トレーニングセンター)と呼ばれる施設で、デビュー後の競走馬をレースの合間に預かり、休養と調教を行う拠点です。特にノーザンファーム天栄(関東)としがらき(関西)は、数多くの名馬を送り出したことで評判が高く、*「天栄仕上げ」「しがらき仕上げ」*とも呼ばれる独自の調整方法で知られています。本記事では、天栄としがらき各施設の所在地や設備、育成方針、対象馬(美浦・栗東)ごとの役割や調教アプローチの違いを解説し、代表的な活躍馬やファン・一口馬主にとってのメリットにも触れます。併せて関連施設である北海道の早来空港(長期休養・育成目的)についても簡単に紹介します。

ノーザンファーム天栄(てんえい):美浦トレセン近郊の東の外厩拠点

ノーザンファーム天栄は福島県岩瀬郡天栄村に位置し、美浦トレーニングセンター(関東)から車で約3時間(約230km)の場所にあります。2011年に天栄ホースパークを買収して開設された比較的新しい施設で、美浦所属馬にとっての「東の前線基地」です。静かで自然豊かな環境と広大な敷地を活かし、主に関東馬のレース間隔中の調整・リフレッシュを担っています。特徴をまとめると以下の通りです。

  • 所在地・環境: 福島県天栄村(美浦トレセンの北約230km)。山間の冷涼な気候と豊かな自然環境で、夏場でも馬にとって過ごしやすい(猛暑日対策に冷房設備も導入)と言われます。広大な敷地と静かな環境は、馬の心身のリフレッシュに最適です。
  • 施設概要: 調教厩舎は12棟・収容約355頭(開設当初は約286馬房)。屋外に全長900mの直線坂路コース(高低差約36m)と1200mの周回コース、屋内の角馬場やウォーキングマシン、トレッドミル等を備えます。特に900m坂路(最大勾配約8%)は美浦トレセン(最大勾配約4.5%)より勾配がきつく、長距離を登坂させることで心肺機能とスタミナ強化に効果を発揮します。自動計測装置でタイム管理も可能なポリトラック坂路を駆使し、一頭一頭に合わせたきめ細やかなトレーニングが行われています。
  • 主な対象馬: ノーザンファーム生産の美浦所属馬が中心です。いわゆる「天栄仕上げ」と呼ばれる調整法で、美浦の有力厩舎(国枝栄厩舎、木村哲也厩舎など)の管理馬が多数利用します。美浦近郊では突出した外厩施設のため、ノーザンファーム産の素質馬が入厩する厩舎選びにも影響を与える存在です。基本的には美浦馬専用ですが、一部関西の大レース遠征時に美浦馬が中継的に滞在する例もあります。
  • 育成・調教方針: 「トレセン以上」と称されるハードな坂路調教で知られます。美浦の馬房事情に左右されず十分な乗り込みを行い、レース10日前頃までに仕上げてから厩舎へ戻すスタイルです。木實谷雄太場長の下、スタッフと調教師が密に連携し、一頭一頭の状態に合わせた調教メニューを組むことで知られています。給餌の工夫もあり、「天栄としがらきでは調教や飼料の方針が若干異なるため、馬のつくり(馬体の仕上がり)も違う」と言われるほど独自の哲学があります。
  • 代表的な活躍馬: アーモンドアイ(牝馬三冠・ジャパンCなど)やイクイノックス(年度代表馬)、ソングライン(海外G1含むマイル女王)など、天栄で調整された馬が数多くG1タイトルを獲得しています。近年はイクイノックスを筆頭に、休み明けでも天栄仕上げで万全の状態に整えてくる馬が多く、ファンからの信頼も厚いです。

ノーザンファームしがらき:栗東トレセン近郊の西の外厩拠点

ノーザンファームしがらきは滋賀県甲賀市信楽町に所在し、栗東トレーニングセンター(関西)の南西約30分(車移動)の距離にあります。2010年秋に開設された栗東近郊の外厩施設で、天栄と並ぶ「西の前線基地」です。信楽の山中に位置し、栗東より平均気温が3~5℃ほど低い涼しい環境であることから、夏場でも馬に優しい条件が整っています。その立地と設備の充実度から、関西馬の調整拠点として大きな役割を果たしています。主な特徴は次の通りです。

  • 所在地・環境: 滋賀県甲賀市信楽町(栗東トレセンから約15~20km)。周囲は自然豊かな静かな山間地で、夏は栗東より平均気温が約5℃低い涼夏の気候。敷地面積は約28ヘクタール(東京ドーム6個分)と広大で、開放的な環境がストレスフリーな休養を可能にしています。
  • 施設概要: 厩舎棟は12棟・約370馬房の収容能力があります。設備面では、全長800mの屋外直線坂路(高低差39.7m)と900mの周回コース、屋内の角馬場が2面、さらに屋根付きウォーキングマシンなど最新鋭のトレーニング施設が完備されています。800m坂路(最大勾配約8%)は栗東トレセン(高低差32m)より起伏に富み、自動追跡カメラによるタイム計測・走行分析システムも導入されています。これによりハードな坂路調教とデータ解析を両立し、効率的かつ質の高い鍛錬が可能です。
  • 主な対象馬: ノーザンファーム生産の栗東所属馬が中心です。関西圏には他にも外厩がありますが、中でもしがらきは「ノーザンファーム関係馬の西の拠点」として抜群の存在感を誇ります。多くのトップトレーナー(矢作芳人調教師、石坂正調教師ら)の管理馬が利用し、在厩馬の馬房調整や強化合宿の場として活用されています。基本は栗東馬向けですが、美浦の堀宣行調教師の管理馬(ノーザンF生産)など例外的に美浦所属馬がしがらきを利用するケースもあります(※堀調教師と天栄側の調教方針の相違によるとされる逸話があります)。また、関東馬が関西遠征の前に一時滞在する中継基地として使われる例も見られます。
  • 育成・調教方針: “東の天栄、西のしがらき”と言われるように基本方針は似ていますが、細部では若干の違いがあります。しがらきでは長めの坂路での厳しい負荷トレーニングに加え、広い放牧地やウォーキングマシンによるリラクゼーションも重視し、馬のリフレッシュと強化を両立させています。天栄と比べて送り出すタイミング(厩舎に戻す時期)や飼養管理に多少の違いがあり、それが馬体の仕上がりの差にも現れるとされています。いずれにせよ、調教師と場長・スタッフが密接に連絡を取り合い、一頭ずつ最適なメニューで「外厩仕上げ」を施す点は共通しています。
  • 代表的な活躍馬: 開場直後からオルフェーヴル(2011年クラシック三冠馬)やジェンティルドンナ(2012年牝馬三冠馬)を輩出し、その実績で一躍注目を集めました。以降もクロノジェネシス(グランプリ3連覇)、ソダシ(白毛のG1馬)など、多くのG1ホースがしがらき調整を経て活躍しています。しがらき帰りの馬はレースでの仕上がりが良く、「しがらき外厩馬は信頼できる」とファンの間でも評判です。その成果は、例えばG1レースでも前走から3ヶ月以上の休養明けで優勝するケース(2019年天皇賞春フィエールマン、皐月賞サートゥルナーリアなど)が度々見られるほどで、外厩調整の凄さを証明しています。

天栄としがらきの違い・共通点まとめ

天栄としがらきはいずれもノーザンファームが誇る先進的な外厩施設ですが、東西でそれぞれ以下のような違いと共通点があります。

  • 対象馬と立地: 天栄は関東(美浦)所属のノーザンF生産馬が中心で、福島県に位置します。しがらきは関西(栗東)所属のノーザンF生産馬が中心で、滋賀県に位置します。両施設とも各トレセンから近く、遠征時の中継拠点にもなります。
  • 設備・コース: 天栄は900mの坂路と1200m周回コース、しがらきは800m坂路と900m周回コースが主軸です。どちらも最大勾配約8%の急坂でトレセン以上に負荷をかけた調教が可能です。天栄はポリトラック坂路、しがらきもニューポリトラック素材を採用し、天候に左右されにくい調教環境を整えています。
  • 気候・環境: 天栄も信楽もしっかりとした山間の自然環境にあり、夏場の涼しさや静かな環境という利点を持ちます。特にしがらきは栗東より平均気温が低く、馬に優しい避暑地となっています。両施設とも広大な敷地で放牧やウォーキングを取り入れ、精神面のケアも重視しています。
  • 調教方針の違い: 前述の通り、天栄としがらきでは若干の調教・給餌方針の違いがあり、馬体の作りにも違いが出ると言われます。一般的な印象では、天栄はレース直前までみっちり乗り込みつつも馬体重を減らしすぎない管理しがらきは若干早めに仕上げて余裕を持って厩舎へ戻すなどの違いが指摘されます(細かな差であり本質的な目標は共通)。どちらも「厩舎の延長」として調教師が信頼を寄せる存在であり、実際に両外厩から送り出された馬がコンスタントに好成績を収めています。
  • 外厩利用の効果: 天栄・しがらきの活用により、馬房数の限られた厩舎でも倍以上の競走馬を効率よく管理できるメリットがあります。レース後に直接外厩へ放牧・調整に出し、次走直前に戻すサイクルを確立することで、馬の疲労回復と鍛錬を両立させつつ厩舎の負担を軽減しています。その結果、休み明けでも馬がしっかり仕上がった状態でレースに臨めるため、ファンにとっては「長期休養明けでも買える馬」として注目され、一口馬主にとっては愛馬のキャリアが大切に伸ばせる利点となっています。

天栄 vs しがらき 比較表

以下にノーザンファーム天栄としがらきの主要な項目を比較表にまとめます。

項目ノーザンファーム天栄ノーザンファームしがらき
所在地福島県天栄村(美浦近郊)
美浦トレセンから約230km
滋賀県甲賀市信楽町(栗東近郊)
栗東トレセンから約30分
開場時期2011年(買収・開設)2010年秋(新設)
収容規模調教厩舎12棟・約355頭収容厩舎12棟・約370頭収容
主な設備屋外坂路900m(最大勾配約8%)
屋外周回1200m、角馬場2面、他
屋外坂路800m(最大勾配約8%)
屋外周回900m、角馬場2面、他
主な対象馬美浦所属×ノーザンF生産馬
※一部栗東馬の遠征時利用あり
栗東所属×ノーザンF生産馬
※一部美浦馬の例外利用あり
調教方針の特徴坂路中心に乗り込み、ギリギリまで外厩調整
天栄仕上げ=徹底した乗込とケア
坂路+放牧でメリハリ調教、早めに仕上げ厩舎へ
しがらき仕上げ=自然環境で心身リセット
代表的な馬アーモンドアイ、イクイノックス、
ソングライン、ブエナビスタ等
オルフェーヴル、ジェンティルドンナ、
クロノジェネシス、ソダシ等

(※上記以外にも多数の活躍馬が両施設から送り出されています。)

その他の関連施設:早来・空港(北海道)

ノーザンファームの外厩・育成拠点は本州だけでなく北海道にも存在します。その代表が早来(はやきた)と空港の2施設です。両者は主にデビュー前の育成や**長期休養(療養)**目的で使われ、天栄・しがらきと合わせてノーザンファームの“一貫育成パイプライン”を形成しています。

  • ノーザンファーム早来(北海道勇払郡安平町): ノーザンファームの本場とも言える総合牧場で、繁殖から育成、調教まで一貫して行う拠点です。調教厩舎は13棟・約400頭規模、屋内800mウッドチップ坂路や周回コースなどを備え、クラシックを目指すエリート馬が多く集まる「王道」育成牧場として知られます。早来で鍛えられた2歳馬は美浦・栗東の各厩舎へ入厩しデビューしていきます。一口馬主にとって、自分の出資馬が早来に配属されるか空港に配属されるかは将来を占う重要な要素と言われるほどです。
  • ノーザンファーム空港(北海道苫小牧市): 新千歳空港近郊に位置する調教専用牧場で、19棟・約571馬房という大規模施設を誇ります。1歳秋~デビュー直前までの競走馬育成に特化しており、屋外1200mポリトラック坂路や屋内900m周回コースなど多彩なコースを使い分けて馬ごとの個別強化を図るのが特徴です。早来より少頭数である利点を活かし馬の個性に合わせた柔軟な育成を行う「革新的」な牧場と位置付けられています。また、美浦・栗東どちらの所属馬もほぼ均等に配属される傾向があり、東西の垣根なく利用される育成施設です。NF空港は長期の休養馬の療養先としても使われ、実際に北海道の牧場見学ツアーでは「本州移動前の2歳馬に初対面できたり、療養中の出資馬に久々に会えたりする」のが早来・空港ならではの楽しみと紹介されています。

※早来・空港はいずれもデビュー前や長期休養時の拠点であり、基本的にレース後の短期放牧には天栄・しがらきが使われます(故障療養の場合は空港や早来に長期滞在するケースもあり)。こうした東西の外厩(天栄・しがらき)と北の育成牧場(早来・空港)の連携が、ノーザンファーム産馬の圧倒的な競走成績を支える大きな要因となっています。

ノーザンファーム空港・早来については、別記事で詳しく掘り下げています↓

まとめ:外厩活用のメリットと一口馬主への魅力

ノーザンファーム天栄としがらきは、日本競馬界をリードする外厩施設として、その評判に違わぬ成果を上げ続けています。天栄仕上げ・しがらき仕上げによって馬たちはレース間隔が空いても衰えないどころかパワーアップして戻ってくるため、近年は*「休み明け○」「外厩明けなら買い」*といったフレーズが競馬ファンの間でも定着しました。一口馬主にとっても、自分の愛馬がこれらの外厩でしっかりケアされていることは大きな安心材料であり、出資馬のポテンシャルを最大限に引き出してくれる頼もしい存在です。

天栄としがらき、それぞれ設備やアプローチに多少の違いはありますが、「競走馬に最適な休養と鍛錬の場を提供する」という使命は共通です。馬にとってはホテルとジムが一体化したような存在であり、ファン・オーナーにとってもレースを陰で支える縁の下の力持ちです。ノーザンファームの外厩ネットワークを理解し上手に活用することで、これからも数多くの名馬がターフに送り出され、私たちを魅了してくれることでしょう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA