【種牡馬考察】オルフェーヴル産駒の考察

はじめに
一口馬主クラブで出資馬を選ぶ際、近年オルフェーヴル産駒の評価が見直されつつあります。2011年に日本競馬史上7頭目の三冠馬となり、翌年には凱旋門賞で惜しくも2着に入ったオルフェーヴルは、その現役時代の伝説から今なお人気の高い種牡馬です。一方で産駒の評判はデビュー当初賛否両論でしたが、近年は母父オルフェーヴルとしての活躍馬も現れ、再び注目を集めています。
本記事ではオルフェーヴルの現役時代の戦績から種牡馬としての成績、産駒の適性や市場評価を振り返り、オルフェーヴル種牡馬への出資を検討するヒントを探ります。オルフェーヴル産駒に出資すべきか迷っている一口馬主の方は、ぜひ最後まで読み進めてください。
1. 現役時代の戦績と評価
オルフェーヴルは2011年に皐月賞、日本ダービー、菊花賞を制して史上7頭目のクラシック三冠馬となり、同年末の有馬記念も制して“4冠”を達成しました。さらに古馬となった2012年には宝塚記念も制覇し、年間を通じて最優秀古馬に選出。フランス遠征では凱旋門賞に2年連続で挑戦し、2012年はソレミア、2013年はトレヴの前にいずれも僅差の2着と健闘しました。あと一歩で日本馬初の凱旋門賞制覇という快挙に迫った走りは国内外のファンを熱狂させ、その勇姿から「史上最強とも評された栗毛の怪物」と称されています。
勝負根性と瞬発力に優れた一方、阪神大賞典(2012年)でレース中に逸走してしまうなど破天荒な気性も有名でした。気性的な難しさはありながらも、それすら魅力に変えてしまうカリスマ性がオルフェーヴルにはありました。引退レースとなった2013年有馬記念では、2着馬に8馬身差をつける圧巻のパフォーマンスで優勝し、中山競馬場に集まったファン6万人に別れを告げています。その走りとドラマ性から顕彰馬にも選出されており、生涯成績は21戦12勝。オルフェーヴルは現役時代の実績と強烈な個性によって、日本競馬史に名を刻んだ名馬と言えるでしょう。
2. スタッドインの背景と注目度
偉大な戦績を残したオルフェーヴルは、2013年有馬記念を最後に引退し、その翌週には北海道安平町の社台スタリオンステーションに到着しました。2014年春から種牡馬として供用が開始され、初年度の種付料は600万円と設定されました。当時のリーディングサイアーであったディープインパクトの初年度1200万円には及ばないものの、国内産馬として史上初の三冠馬という血統的価値(父ステイゴールド×母父メジロマックイーンの“黄金配合”)や、父系であるサンデーサイレンス直系の後継種牡馬として期待されることもあり、高額な設定となりました。社台SSの徳武氏は「未知数な面もあり150頭ほどで申し込みを一旦ストップした」と語っており、初年度から繁殖牝馬の問い合わせが殺到した様子がうかがえます。実際、初年度は最終的に244頭もの繁殖牝馬と交配し(満口)、オルフェーヴルへの期待の大きさがうかがえました。
繋養先は社台スタリオンステーションで、生産界の注目度も極めて高いスタートでした。父ステイゴールド譲りのシュッとした馬体に栗毛の美しい馬姿は見学者を惹きつけ、担当者も「やんちゃな部分はほどほどにして能力を伝えてほしい」と冗談交じりに語ったほどです。オルフェーヴルは“メイドインジャパン”の結晶とも言える血統背景を持ち、日本調教馬として快挙を成し遂げた存在だけに、スタッドイン当初から国内外の配合相手に恵まれました。産駒が将来凱旋門賞に挑戦してほしいという声も上がるなど、その種牡馬入りは競馬ファンにとっても大きな希望を抱かせるものでした。
3. 種付け料と種付け頭数
オルフェーヴルの種付け料および種付け頭数の推移は以下の通りですameblo.jpameblo.jp。
| 年度 | 種付け料(受胎条件) | 種付け頭数 |
|---|---|---|
| 2014年(初年度) | 600万円 | 244頭 |
| 2015年 | 600万円 | 256頭 |
| 2016年 | 600万円 | 244頭 |
| 2017年 | 600万円 | 191頭 |
| 2018年 | 500万円 | 136頭 |
| 2019年 | 400万円 | 52頭 |
| 2020年 | 300万円 | 165頭 |
| 2021年 | 350万円 | 157頭 |
| 2022年 | 350万円 | 129頭 |
| 2023年 | 350万円 | 172頭 |
| 2024年 | 350万円 | 122頭 |
| 2025年 | 350万円 | 57頭 |
| 2026年 | 350万円 | — |
初年度から2016年まで種付け料600万円を維持し、大量の繁殖牝馬を集めました。しかし産駒デビュー前後の評価がやや伸び悩んだ影響もあり、2017年頃から種付け頭数は減少傾向に転じます。特に2019年は種付け頭数52頭と極端に落ち込み、種付け料も400万円まで引き下げられました。これは初年度産駒が2歳戦で目立った活躍を見せられなかったことや、サンデーサイレンス系種牡馬の激しい競争の中で一時「オルフェーヴル失速」と評された時期に相当します。
しかしその後、2018~2019年に産駒のラッキーライラック(エリザベス女王杯などG1・3勝)やエポカドーロ(皐月賞馬)が登場すると評価が一転。2020年には種付け料300万円まで下げたタイミングで産駒が躍進したこともあり、一気に交配数が回復しました。以降は種付け料350万円に増額されたにもかかわらず毎年安定して130~170頭前後の繁殖牝馬を集めています。2023年はドバイワールドCを産駒が制した追い風もあって172頭に増加し、2024年は速報値で120頭程度と若干落ち着いたものの依然高い人気を維持しています。このように種付け数の推移を見ると、オルフェーヴル産駒の成績に応じて需要が上下しつつも、近年は再評価によって種牡馬としての地位を確立し直していることが分かります。
4. 産駒の傾向と評価
オルフェーヴル産駒の特徴としてまず挙げられるのは、芝向きの素質とダート適性の両面を秘めている点です。父ステイゴールド系らしく本質的には芝の中長距離志向の血統ですが、産駒からは芝G1馬のみならずダートの世界的レースで活躍する馬も現れました。例えば牡馬では2018年皐月賞馬エポカドーロ(芝2000m)、牝馬ではラッキーライラック(GI4勝、芝1600~2200m)といったクラシック級の芝馬を輩出する一方、ウシュバテソーロ(2023年ドバイワールドカップ優勝)やマルシュロレーヌ(2021年ブリーダーズカップ・ディスタフ優勝)はダートで世界一に輝いています。これは配合相手の特徴によるところも大きく、オルフェーヴル産駒は母方の血統次第で芝・ダートいずれにも大物が出る柔軟性があると言えます。「エポカドーロやラッキーライラックの母はいずれもフォーティナイナー系(米国型スピード血統)」であり、オルフェーヴルに米国型のスピードが加わると芝でも一流が出ると社台スタリオン関係者も分析しています。実際、近年の配合ではダート適性の高い繁殖牝馬との交配が増えており、今後は砂の舞台でさらなる活躍馬が出る可能性も指摘されています。
距離適性を見ると、中長距離での活躍が目立ちます。クラシックディスタンス(2000~2400m)でG1を勝ったエポカドーロやラッキーライラック、中距離~長距離でG2・G3を量産しているオーソリティやソーヴァリアント、長距離重賞を制したシルヴァーソニック(サウジ・レッドシーターフHの勝ち馬)など、スタミナを要するレースで結果を出す馬が多いです。一方で短距離・マイル戦線のスピード勝負でトップクラスとなった産駒は少なく、芝スプリントGI級の馬は現在のところ出ていません(オープン馬ではギルデッドミラーなど芝マイル前後で活躍する例はあり)。ダートでは前述のとおり中距離(1800~2000m前後)で能力を発揮する産駒が目立ち、芝・ダート問わず**「中距離~長距離型」の種牡馬**と言えます。
成長力については、総じて「晩成傾向がやや強い」が定説でした。初年度産駒は2歳戦で目立った成績を残せず評価を落とした経緯がありますが、これはオルフェーヴル譲りのスタミナ型ゆえとも言われます。しかしラッキーライラックが新馬戦から無敗でGI阪神JFを制し2歳女王になったように、繁殖牝馬の血統次第では早い時期から活躍する馬も出ています。全体的には3歳春以降にグッと力をつけてくるタイプが多く、古馬になってさらに開花した例も豊富です。ウシュバテソーロは4歳秋に条件馬からオープンに這い上がり、6歳でダート世界一にまで上り詰めましたし、マルシュロレーヌも5歳で米国遠征し大金星を挙げました。じっくり成長を見守れば大化けする可能性を秘めているのがオルフェーヴル産駒と言えるでしょう。
気性面では、やはり父譲りの個性派が少なくありません。普段は大人しいもののレースでスイッチが入ると掛かりやすい馬、真面目に走ると非常に強いがムラ駆けする馬など、扱いに工夫が必要なケースも見られます。ただし「暴れ馬」「じゃじゃ馬」ばかりかというと決してそうではなく、牝馬を中心にラッキーライラックやショウナンナデシコ(Jpn1・TCK女王盃優勝)のように気性の安定した産駒もいます。総じて言えば、勝負根性があり闘志が旺盛なタイプが多く、それゆえ気持ちが空回りするとレースで力を出し切れないことがある、という印象です。「ステイゴールドの父系は意外性が魅力。いい意味で裏切ってくれるのが良いところ」というコメントもあるように、爆発力と紙一重の扱いづらさも含めてオルフェーヴル産駒の味わいだと言えます。
セレクトセール・市場評価
種牡馬オルフェーヴルの産駒は市場でどのように評価されてきたのでしょうか。まず初年度産駒が上場された2015年のセレクトセールでは、期待の大きさから高額落札馬が相次ぎました。2日目当歳市場では17頭のオルフェーヴル産駒が上場され、最高価格は8,000万円(ダノックスが落札)に達し、平均価格も4,108万円と全体平均を大きく上回りました。当時の池江調教師も「繁殖のレベルが高いので絶対に走ってくる」と太鼓判を押しており、生産・市場関係者の期待値は極めて高かったことが伺えます。
その後、産駒成績の低迷とともに市場評価も一時下がりましたが、近年は再び上昇傾向にあります。2023年以降、国内外で産駒がGIレースを制覇したことで評価が見直され、2025年のセレクトセールではオルフェーヴル産駒に過去最高額がつきました。当歳馬として上場された「レディマドンナの2025」(牡、父オルフェーヴル)は、半兄に地方3歳ダート二冠馬ナチュラルライズがいる血統背景も相まって1億7,000万円(税抜)もの価格で落札されています。この価格はオルフェーヴル産駒史上最高額であり、「ダート志向の血統でもこれほどの額が動くようになった」と市場関係者を驚かせました。
また同セールでは、ウシュバテソーロの全弟にあたる当歳牡馬が8,400万円で落札されるなど、活躍馬の近親や再現配合には高いプレミアが付く状況です。1歳市場でも上場されたオルフェーヴル産駒3頭全てがリザーブ価格の3倍以上で落札されており、市場での人気は「上々」と評価されました。特筆すべきは、近年牝馬の売れ行きが良い点です。これは「母父オルフェーヴル」の産駒が重賞を勝ち始めていることで、将来的に繁殖牝馬としての価値を見込まれているためです。事実、2022年ホープフルステークスを制したドゥラエレーデ(父ドゥラメンテ)は母父オルフェーヴルの代表例であり、他にもコラソンビート(京王杯2歳S)、ナナオ(マーガレットS)といった活躍馬が次々と誕生しています。この流れから、生産界では「オルフェーヴルの娘を持っておきたい」という需要が高まっており、結果として競走馬セールでオルフェーヴル産駒の牝馬がしっかり高値で取引されるようになっています。
以上のように、市場におけるオルフェーヴル産駒の評価は紆余曲折を経て適正なポジションに落ち着いた印象です。当初の過熱した人気から一時冷却期間がありましたが、現在では「高すぎず安すぎず、狙った配合次第で大物が期待できる種牡馬」として、生産者・バイヤー双方から堅実な支持を集めています。
5. 出資判断のヒントとまとめ
以上を踏まえ、一口馬主としてオルフェーヴル産駒への出資を検討する際のポイントを整理します。
向いている出資者像: オルフェーヴル産駒は大舞台でのサプライズが期待できる反面、成長に時間がかかったり気性難が出たりするリスクも抱えます。そのため、「即座の2歳重賞制覇よりも、クラシックや古馬G1を狙いたい」「多少時間がかかっても大物感のある馬にロマンを感じる」タイプの出資者に向いているでしょう。オルフェーヴル自身が現役時代にファンをハラハラさせつつ大舞台で期待以上の走りを見せたように、産駒にも一発大物狙いの魅力があります。血統好きなファンや、「あのオルフェーヴルの仔を持つ」というロマンを求める方にもぴったりです。
狙い目ポイント: 配合面では前述したように米国型スピード血統との相性が良く、クラブ募集馬でも母父がキングカメハメハ系やフォーティナイナー系であれば面白い存在です。芝・ダート問わず中距離以上で活躍できるので、クラシックから海外遠征まで視野に入れた活躍を期待できます。また、牝馬であれば引退後に繁殖牝馬として価値が上がる可能性が高まっており、クラブによっては繁殖セールで高値売却→分配という形でリターンが見込めるケースもあるでしょう。さらに、近年種付け料が据え置かれていることもあり募集価格は適正水準に落ち着いている傾向です。他の超人気種牡馬(ディープインパクト系やキングカメハメハ系の直仔)に比べて募集価格が割安なことも多く、コストパフォーマンスで妙味があります。
リスクと注意点: やはりムラ駆けや気性面のリスクは念頭に置く必要があります。気性の激しさがレースに影響する産駒もおり、安定感という点では父系譲りの課題が残ります。また、成長に時間がかかる馬も多いため、2歳戦からバリバリ活躍…とはいかないケースが少なくありません。クラシックを狙える素材か見極めるにはデビュー前の育成段階でしっかり馬体や気性をチェックしたいところです。過去には「オルフェーヴル産駒は期待外れ」と失望された時期もありましたが、それは裏を返せば一部に過剰な期待があったとも言えます。平地GI馬も複数出してはいるものの、ディープインパクトのような毎年クラシック候補を送り出すタイプではなく、当たれば大きい反面、外れると条件馬止まりという極端さも意識しておきましょう。
今後の展望: オルフェーヴルは今年17歳となり、種牡馬としてのキャリアも終盤に差し掛かっています。しかし「最後にもう一発、大物を出す可能性」を関係者も期待しており、実際2023年前後の産駒から世界的な活躍馬が出現しました。今後、産駒世代が進むにつれ父系直系の後継種牡馬が現れるかは未知数ですが、少なくとも繁殖牝馬としてオルフェーヴルの血は次世代に受け継がれていくでしょう。ドゥラエレーデの例を見るまでもなく、母父として成功する兆しがすでに見えています。
一口馬主としては、オルフェーヴル産駒に出資することで将来的に「繁殖牝馬としてのプレミア」を手にできる可能性もあります。総合的には、オルフェーヴル産駒への出資はリスクとロマンが程よく同居した選択肢と言えるでしょう。大舞台志向の夢を追いつつも、現実的な配合傾向や市場評価の情報を活用して、ぜひ賢明な判断を下してみてください。
※本レポートは2025年12月時点の情報を基に作成されています。出資判断はご自身の責任において行ってください。
