【2025種牡馬考察】モーリス産駒の考察

種牡馬考察

はじめに

各クラブの募集馬リストを見ていると、毎年気になるのがモーリス産駒です。現役時代は「怪物」なんて呼ばれるほど強くて、マイルから中距離までG1を勝ちまくった名馬です 。その強烈な印象から、「産駒もさぞかし…」と期待する方も多いのではないでしょうか。  

でも、種牡馬としてのモーリスは、現役時代のイメージ通りなのでしょうか?どんな特徴があって、どんな配合なら走りやすいのか。そして、私たち一口馬主にとって、モーリス産駒への出資はどんな魅

力と注意点があるのでしょう。

この記事では、2025年のシルク募集馬選びの参考になるように、種牡馬モーリスについて、現役時代から産駒の傾向、そして出資のヒントまで、分かりやすく解説していきます!

現役時代の戦績と評価

まずは、お父さんであるモーリスがどんな競走馬だったのか、振り返ってみましょう。産駒の特徴は、父親の現役時代にヒントが隠されていることが多いですからね。

本格化前夜:もどかしいレースが続いた3歳時代

モーリスのキャリアは、最初から順調だったわけではありません。2歳でデビューしてすぐに2連勝し、「お、これはクラシック候補か?」と期待されました 。ところが、3歳になるとスプリングS 4着、京都新聞杯 7着など、勝ちきれないレースが続きます 。才能の片鱗は見せるものの、なかなか結果に結びつかない、もどかしい時期でした。  

この「若い頃は苦労した」という点は、モーリスを理解する上でとても大切なポイントです。彼は早くから完成するタイプではなく、体がしっかりしてくるのを待って強くなる「晩成型」だったんですね。この傾向は、産駒にもしっかり受け継がれています。4歳になって堀厩舎に移ってから、彼の才能は一気に花開くことになります 。  

マイル路線の絶対王者へ:2015年の快進撃

4歳になったモーリスは、まるで別馬のように覚醒します。条件戦を連勝すると、ダービー卿チャレンジトロフィー(GIII)で後続に0.6秒差をつける圧勝で重賞初制覇 。そして迎えた安田記念(GI)では、GI馬が5頭もいる豪華メンバーの中で1番人気に支持されます 。レースでは好位から力強く抜け出し、見事にGI初制覇を成し遂げました 。  

勢いは止まらず、秋にはマイルチャンピオンシップ(GI)も完勝 。これで史上6頭目となる「春秋マイルGI制覇」を達成します 。年末には香港マイル(G1)にも挑戦し、当時のアジア最強マイラーと言われた地元の英雄エイブルフレンドを破って優勝 。年間6戦無敗、GI・3勝という圧倒的な成績で、2015年の年度代表馬に選ばれました 。  

「距離の壁」を打ち破った中距離王

2016年、陣営はマイルだけでなく、さらに上のカテゴリーである中距離路線に挑戦します。まずは香港のチャンピオンズマイル(G1)を連覇し、マイラーとしての地位を不動のものに 。しかし、その後は札幌記念(GII)2着、安田記念2着と連勝がストップ 。一部では「2000mは長いのでは?」なんて声も囁かれる中、天皇賞(秋)(GI)へと向かいました 。  

この天皇賞(秋)こそ、モーリスの強さを決定づけたレースと言えるでしょう。中団でレースを進めると、府中の長い直線で馬場の真ん中を突き抜け、リアルスティールなどの強豪を置き去りにして完勝 。鞍上のライアン・ムーア騎手も「この脚なら誰も追いついてこれない自信があった」と絶賛するほどの強さでした 。マイルで見せたスピードだけでなく、2000mでも通用するパワーとスタミナを証明し、距離への不安を一掃したのです。  

そして引退レースとなった香港カップ(G1)では、キャリアの集大成となる圧巻の走りを見せます。後方からレースを進め、直線では最内から鋭く伸びて3馬身差の楽勝 。ムーア騎手に「マイルでも素晴らしいけど、2000mではもっと素晴らしい」と言わしめるほどのパフォーマンスで、マイルと2000m、二つの距離で香港の頂点に立ちました 。まさに「アジアの帝王」と呼ばれるにふさわしい名馬でした 。  

スタッドインの背景と注目度

輝かしい成績を残して引退したモーリスは、種牡馬として大きな期待を集めることになります。その理由は、彼の血統背景にありました。

血統的背景:パワーのロベルト系×粘りのメジロ血統

モーリスの血統は、今の日本競馬では少し珍しい組み合わせです。父のスクリーンヒーローは、パワーとスタミナで有名なロベルト系の血を引いています 。そして母のメジロフランシスを遡ると、メジロマックイーンやメジロライアンなどを輩出した、日本の名門「メジロ牧場」の牝系に行き着きます 。  

つまり、モーリスの血は、サンデーサイレンス系が主流のスピード競馬とは少し違う、「パワー」と「スタミナ」が持ち味。サンデーサイレンスの血を持っていないため、国内の優秀なサンデーサイレンス系の繁殖牝馬と配合しやすく、仔馬にパワーやタフさを伝えられる理想的なパートナーとして、生産者から大きな注目を集めたのです。

超良血の繁殖牝馬が集結!生産界からの大きな期待

その期待の大きさは、モーリスに集まったお嫁さん(繁殖牝馬)の顔ぶれを見れば一目瞭然です。彼は日本最高峰の社台スタリオンステーションで種牡馬入りし 、初年度から三冠牝馬  

ジェンティルドンナ、年度代表馬ブエナビスタ、オークス馬シーザリオといった、競馬史に残る名牝たちがズラリと配合相手に並びました 。最近では、9冠牝馬  

アーモンドアイとの間にも子供が生まれるなど、その期待は今も続いています 。これほど豪華な繁殖牝馬に恵まれた種牡馬は、そうそういません。まさにエリート待遇での種牡馬生活スタートでした。  

種付け料と種付け頭数の推移

種牡馬の人気を測るバロメーターが、種付け料と種付け頭数です。モーリスの数字の移り変わりを見てみましょう。

2017年に種牡馬入りした際の種付け料は400万円でした 。それでも初年度から265頭もの繁殖牝馬が集まる人気ぶりで、生産界の期待の高さがうかがえます 。  

スクロールできます
年度 (Year)種付け料 (Stud Fee)種付け頭数 (Mares Covered)
2017400万円265
2018400万円245
2019400万円212
2020400万円165
2021800万円146
2022800万円133
2023800万円158
2024800万円122

 

大きな転機は2021年。産駒がデビューし、ピクシーナイトがシンザン記念(GIII)を勝つなど活躍を見せ始めると、種付け料は一気に倍の800万円にアップしました 。その後もG1馬を輩出し続けたことで、この価格が維持されています。これは、モーリスが安定して活躍馬を出す、トップクラスの種牡馬として認められた証拠と言えるでしょう。  

産駒の傾向と評価

では、実際にモーリス産駒はどんな特徴を持っているのでしょうか?活躍馬を例に見ながら、その「トリセツ」をチェックしていきましょう。

モーリス産駒の「トリセツ」

  • 芝・ダート適性: 基本は芝向きですが、パワーがあるのでダートをこなす馬もいます。特に母方の血統にアメリカのスピード血統が入っていると、ダートでの活躍が期待できます 。  
  • 距離適性: 父はマイル王でしたが、産駒は1800m〜2200mくらいの中距離を得意とする馬が多いです 。ただ、スプリンターズSを勝ったピクシーナイトのような短距離馬もいるので、配合相手によって色々なタイプの馬が出ます。  
  • 成長力: ここが一番のポイント!父と同じく「晩成型」が多く、本格化するのは3歳の秋以降や、古馬になってからというケースが目立ちます 。若い頃は体がまだ緩く、完成途上なことが多いので、じっくり成長を待つ必要があります 。  
  • 気性: 闘争心が強く、レースでの勝負根性につながる一方で、少し気難しい面を見せることもあります 。レースでムキになってしまったり、コントロールが難しくなったりするリスクもあるので、個々の馬の性格を見極めるのが大切です 。  
  • 得意な展開: パワーとスタミナが活きる、タフな展開が得意です。ペースが速い消耗戦や、時計のかかる馬場になると強さを発揮します 。逆に、スローペースからの瞬発力勝負は少し苦手な傾向があります。  

代表産駒:こんな馬たちが活躍しています!

  • ジェラルディーナ:最高の血統が生んだ女王
    • 血統: 母は三冠牝馬ジェンティルドンナ(父ディープインパクト)という、まさに「ドリーム配合」 。  
    • 実績: エリザベス女王杯(GI)を勝ち、2022年の最優秀4歳以上牝馬に選ばれました 。  
    • 分析: 彼女の成功は、モーリスのパワーと、ディープインパクトのスピードが見事に融合した結果です。サンデーサイレンス系の繁殖牝馬との相性の良さを証明しました。
  • ジャックドール:パワーで押し切る逃げ馬
    • 血統: 母の父にアメリカのスピード血統Unbridled’s Songを持つのが特徴です 。  
    • 実績: 大阪杯(GI)など、中距離の重賞を次々と勝ちました 。  
    • 分析: 持ち前のパワーとスピードの持続力を活かして、ハイペースで逃げて押し切るレースぶりは、まさに父モーリスの力強さを受け継いでいます。
  • ピクシーナイト:父の万能性を証明したスプリンター
    • 血統: 母の父はキングヘイローです 。  
    • 実績: 3歳でスプリンターズステークス(GI)を制覇しました 。  
    • 分析: 中距離馬が多いモーリス産駒から現れた、まさかの短距離G1馬。彼の活躍によって、モーリスが配合相手の良さを引き出し、幅広い距離で活躍馬を出せる万能な種牡馬であることが証明されました。

2025年シルク募集馬と出資判断のヒント

さて、ここまでの情報を踏まえて、今年のシルク募集馬の中から注目のモーリス産駒と、出資を考える上でのポイントを見ていきましょう。

注目募集馬ピックアップ

今年のモーリス産駒は5頭いますが、その中でも特に血統的に注目の2頭を紹介します 。  

No. 52 ソブラドラインクの24 (牡)

概要: 募集総額5,500万円。お母さんのソブラドラインクは、アルゼンチンの3歳牝馬チャンピオンというすごい経歴の持ち主です 。  

分析: 母は日本でもすでにユニコーンS(G3)勝ち馬のカナルビーグルなどを出しており、繁殖牝馬としての実績は十分 。モーリスのパワーと、南米トップクラスの血統が組み合わさったこの馬には、大きな夢が見られそうです。募集価格の高さは、それだけ期待されている証拠でしょう。  

評価: 大舞台での活躍を期待したい、ロマンあふれる一頭。血統背景は文句なしです。

No. 13 シーブルックの24 (メス)

概要: 募集総額5,000万円。こちらもお母さんはオーストラリアのG1馬シーブルックです 。  

分析: 素晴らしい血統ですが、牝馬である点は少し気になるところ。モーリス産駒は、ジェラルディーナという偉大な例外はいますが、全体的には牡馬の方がG1級の活躍馬が多く、牝馬は少し苦戦する傾向があります 。これは、モーリスが伝えるパワフルな馬体が、牡馬にはプラスに働きやすい一方で、牝馬に求められるしなやかさとは少し違う方向性なのかもしれません 。  

出資判断のヒント:モーリス産駒と上手に付き合うには?

すでにサイアーランキングのトップ10常連であり、その地位は安定しています 。モーリス産駒への出資は、一発逆転を狙うというよりは、G1級の「強さ」と「タフさ」という、確かな実績に裏打ちされた血統への投資と言えるかもしれません。  

どんな人におすすめ?: 「じっくり成長を待てる人」に一番おすすめです。晩成型が多いので、2歳戦からバリバリ活躍!というよりは、3歳の秋以降、古馬になってからの飛躍に期待するスタンスが良いでしょう。

血統の相性(配合の狙い目):

母の父サンデーサイレンス系: ジェラルディーナの成功例が示すように、モーリスのパワーにサンデー系のスピードが加わるこの配合は、成功パターンのひとつです 。バランスの取れた馬が生まれやすいと言われています。  

スピード血統の補強: 母系にDanzigなどのスピード血統が入る配合も注目です。ピクシーナイト(母の父キングヘイロー)のように、父のスタミナにスピードが加わることで、短距離など違うカテゴリーでの活躍も期待できます 。  

期待できる点と注意点:

期待できる点: 1600m〜2400mくらいまで、幅広い距離で走れるタフな馬に出会える可能性があります。厳しいレース展開でもバテない勝負根性が魅力です。

注意点: デビューが遅れたり、若い頃はなかなか勝ちきれなかったりする可能性があります。また、気性的に難しい面を見せる馬もいるので、そこは個体差を見極める必要があります。

他の種牡馬との違い:

キタサンブラックやドゥラメンテといったライバルたちと比べると、モーリスはよりパワーとスタミナに優れた産駒を出す傾向があります 。サンデーサイレンス系の血を持たないため、配合の幅が広く、これからも日本の競馬界で貴重な存在であり続けるでしょう。